02年夏・高崎〜犬吠崎の旅（古河でリタイアその後･･･)
8月14日､朝5時、犬吠埼を目指して走行を開始する｡暑くなる前に距離を稼ごうと、ややトバし気味で走行する。今回､駆動系のパーツの大半を6月に交換した為か自転車の調子は万全で､又例年に無く走り込んでいたおかげで体調も良かった。国道354号線をひたすら東に進み､昼前には80km程を進んでいた。しかし、ここでちょっとしたトラブルが発生する。このことが後に起きる不幸の始まりだとは､全く気づくはずの無い私だったのでした・・・。
館林を通過し､渡良瀬遊水地に差し掛かる頃､左ペダルがスムーズに回転しなくなり、異音も聞こえるようになった。このペダルは出発の3日前に急遽交換したもので､出発前にほとんど慣らしを行っていないものだった。新品なので特に心配もしていなかったのだが･･･。その時点で走行自体は十分可能であったが、更に悪化する不安も捨てきれず､メンテを行う工具も持っていなかったので､無理をすることもないかと考え、リタイアを決めて帰路についたのであった。
さて輪行で帰るに当たり､高崎へのアクセスを考えて加須駅に向かう。途中､道の駅「おおとね」で30分ほど休憩した。13時を過ぎ､気温も上がってきたのでのんびりと進み､加須駅に着く。荷物を郵送するために駅前の交番で郵便局の場所を教えてもらう。そして郵便局へ着き、さて、と手を腰にやると･･･あれ？無い･･･そう、財布や携帯などを入れたウエストバックを紛失していたことに気が付いたのでした!
頭が真っ白になり､慌ててどこで無くしたのかを考える･･･あそこだ、道の駅!！休憩した時に腰から外し､枕代わりにして寝転んでいて、起き上がって出発する時に腰に付け直した記憶が無い！！100%の確信は無いものの､90%間違いないと思い､慌てて道の駅に戻る。炎天下､壊れかけの自転車に乗り､旅の全財産＋αを無くした私は走る。道の駅までは約10km･･･。不幸はまだ始まったばかりである・・・。
急いで今きた道を戻るが､焦りと炎天下での強行軍で疲労は急速に蓄積していった。運の悪さは続くもので､ドリンクボトル代わりのペットボトルは郵便局近くで捨ててしまっていたので､飲み物も持っていなかった。次第に両腕にシビレを感じはじめたが､バッグさえ見つかれば何とでもなる､と思い､我慢して道の駅へと向かったのだった。しかし道の駅まであと1km、というところで強いめまいを感じる。これはヤバイと思い､道端の木陰を見つけ､砂利の上に崩れるように倒れこんだ。幸い意識ははっきりとしており､自分の体の状態を確かめる。のどの渇きはさほどでもないが全身の虚脱感と体温の上昇を感じる。熱中症だろうと考えた。倒れた際にところどころ擦りむいたようだが､大したことはないようだ。しかしすぐに動くことは出来そうも無いので､しばらく倒れたまま休むことにした。
30分ほど休んだろうか､ようやく体が動かせるようになり､多少ふらつきながらも道の駅に向かう。ようやく到着し､さっき休憩したところを探すがウエストバックは見付からなかった。売店の店員に聞いてみるが､届けられてはいないとの事。落胆し、休憩所で水を飲み､寝転がって体を休めた。休みながら､あのウエストバックには何が入っていただろうかと思い出す。財布､携帯電話､運転免許証､クレジットカード､キャッシュカード､デジカメ､家のカギ､保険証etc・・・本当にマズいぞ・・・。
拾った人間が悪用しようと思えば色々と使えるものが満載である。シャレにならない！戻ってこないのは仕方ないとしても、悪用されるのは本当に困るので､とにかく警察に紛失届を出さなければ！そう思い､売店の人に近くの警察署の場所を聞くと「近くの駐在所はいつも留守だから（←だめじゃん！）､加須警察署に行くほうが確実だよ｣と教えて貰った。それは､加須駅の近くとのことで、再び今来た10kmの道をフラフラ状態で戻るのであった・・・・。
とにかく急いで届け出なければ､と焦るものの､一度動けなくなってしまったこともあり、ペースを上げられないまま加須へ向かう。途中、水道を見つけては水を飲み､休憩しながら非常食のカロリーメートをかじる。そして何とかギリギリの状態で加須駅に着き、先ほど行った駅前の交番に行くと・・・「お急ぎの方は加須警察署へ電話してください｣・・・電話代も無いっつーの！仕方なく､数kmはなれた加須警察署へ最後の力を振り絞って向かったのだった。
ギリギリを通り越した状態で加須警察署に着き､遺失物係の窓口へ行くと､先に来ていた作業服姿の数人が、窓口の人と何かもめている様子である。立っているのも辛い僕は待合室のソファーに座って窓口が空くのを待つことにした。10分ぐらいしてようやく先客がいなくなり､財布諸々を紛失したことを言い､届け出用紙を記入して提出した。そして窓口で紛失した時の事情について説明している時に､ついに立っていられなくなり､カウンターにもたれかかる。「どうかしましたか？」と聞かれたので､一応｢大丈夫です｣と答えるが､心の中では「こりゃダメだな」と思っていた。そして結局、床にベタっと倒れてしまったのだった。
倒れる瞬間もその後も意識は有ったので､救急車を呼ばれていることや周りに何人かやってきて介抱してもらっていることは分かっていた。ああ、こりゃいかんと思ったが、正直目を開けているのも億劫な状態であり､聞かれることに短く答えるのがやっとであった。ほどなく救急車が到着し､病院へと搬送され､点滴などの処置を受ける。医者の診断は､「脱水症状と熱中症｣ということで､僕の自己診断（あまり信憑性は無いが)と一致していた。しばらくの間、点滴を受けながらベットで横になっていると次第に体調も回復してきて、起き上がって医者と話をすることが出来るようになった。病院に運ばれた事情は救急隊の人に聞いていたようで､差し迫った生命の危機(?)がなくなった今､当面の問題について聞かれた。「これからどうする？どうやって帰る？」・・・・どうしよう？
文無しなので電車で帰ることも出来ず､また自転車で帰るのはあまりに無謀であった。たとえ帰り着いてもカギがないのでアパートの部屋に入ることも出来ない。携帯電話が無いと連絡が出来るのは神奈川の実家くらいのもの。にっちもさっちもいかないとは、まさにこのような時のことなんだなぁ､と妙に納得してしまいました。医者や看護婦に、呆れられるやら同情されるやらで途方に暮れてしまったが､一応のため電話を借りて実家に連絡してみるが・・・そうか、お盆は田舎に帰ってて実家は留守だったんだった・・・うーん、八方塞がりだ。と、ここで打開策を思いつく。会社に電話して､独身寮の電話番号を聞き､帰省せずに寮に居る誰かに助けを求めれば何とかなるかも。最後の望みを託して、うる覚えの会社の代表番号にかけてみると､「はい、マッ●スです」幸運にも誰か会社に居た！名前と所属を言い､事情をかいつまんで話して独身寮の番号を調べてもらう。数分後､「探したんだけど見当たらないなぁ」万事休す！と思った直後､「寮に居る人の番号なら分かるけど｣・・・へ？そんなの教えてもらえるの？と思いつつ､じゃあ、ということで同期や後輩数人の番号を教えてもらうことが出来た。教えて貰った番号に電話をかけたところ、同期の友人に連絡がつき､迎えに来てもらえることになった。ああ、持つべきものは友人だなぁ､と実感したのでした。ただし高崎からなのでかなり時間がかかるとの事で、その間病院のベットで点滴を受けながら、落ち着かない状態で待つのでした。
待つ間､今後の作戦を考える。先ずはアパートの部屋に入らなければ何も出来ないぞ。その為にはカギを何とかしないと。管理会社はどうせ盆休みだろうから、アパート裏に住んでいる大家に借りることにしよう。そしてクレジットカードと携帯電話の停止の手続きが必要だけど、これは確か電話で出来たはずだ。次に運転免許証の再発行か。それから携帯電話の買いなおしと銀行キャッシュカードの再発行。保険証は盆明けに会社に行ってからになるな(と、整理して書けばこんな風になるりますが､ここに至るまではかなり紆余曲折していました。）。そんなこんなで時間が過ぎていき､21時過ぎに友人が到着した。病院の支払いを友人に立て替えて貰って退院することが出来た。そればかりか当座の現金まで貸してもらうことに。何とも迷惑のかけまくりで恐縮でした。帰る前に警察署に寄ってお礼を言い、自転車を預かってもらえるように頼んだ。そして自転車に積んでいた荷物を回収して帰路につき､23時過ぎに高崎に着くが、大家の家を見てみると既に電気が消えている。真夜中にカギを借りに行くのも気が引けたので､明朝にすることにした。さて、朝までどうやって過ごそう？
独身寮に泊めてもらうことも出来たが､朝になったら出来るだけ早くカギを借りて部屋に入りたかったので､遠く離れた寮に泊まるのはあまり良い考えでは無いように思われた。とはいえ僕のアパートの近所に知り合いも居ないし・・・名案が浮かんだ。僕の部屋は１階なので､ベランダに入り込んでそこで野宿しよう。荷物の中には寝袋もあるし、夏なので風邪をひくことも無いだろうし、朝になったらすぐにカギを借りに行けば良い。そのように決め､友人に礼を言って別れた。
借りた金で食料と飲み物を買い､自分の部屋のベランダに入り込む。ただ、あまり大きな音を立てると隣人にドロボウと間違えられるかもしれないので､出来るだけ静かにするように心がけた。入り込んだ後も、そ〜っと、ゆっくり慎重に動き､少しずつ寝床を整えた。ただ、僕のベランダには車のタイヤなどが置かれているので、体を伸ばして寝転ぶことが出来ずに窮屈だった。何かトコトンついてないなぁ。結局ほとんど眠ることも出来ず､夜が明けるのを待った。
５時ごろ、人目に付かないように明るくなりきる前にベランダから這い出る（本当にドロボウみたいだ)。テキトウに時間をつぶし､７時過ぎ頃に大家の家へ行ってカギを借り､ようやく部屋に入ることが出来た。本当に大変な１日だった。しかもまだやらなければならないことは山ほど有る。しかし、兎にも角にも、多くの人に迷惑をかけつつ、このようにして何とか帰宅することが出来たのでした（そして残りの盆休みは、紛失したものの再発行手続きに追われることになるのでした。トホホ・・・）。
一応終わり。ノンフィクションです。